Lourdes  ルルド
 いつのことだったが忘れてしまったが、妻から本を贈られた。
ヴィクトル・ユーゴの「ピレネー」というタイトルの本だった。
その年、休みを取ることもなく忙しく働いていて、夏休みにはピレネー山中のどこか静かなところでのんびりしたいものだ、と のべつバカみたいにいっていたものだから、妻はそのことを覚えていて、古本屋で偶然に「ピレネー」という題の本を見て買ったらしい。
 本には著者が描いたイラストが16枚挿入されていて、ピレネー山中の村や建物が描かれていた。 19世紀の風景は今と大きく変わるところもなく、私は旅情をかきたてられた。 しかし、その年はついに行くことが出来ず、そうこうするうちに旅のことも本のことも忘れてしまい、生活が日常に埋没するとともに 旅の想いも霧消してしまった。
 昨年の夏、ふと本箱からこの本を取ってパラパラとページを繰るうちにまたピレネーへの旅情がよみがえってきた。ちょうど休暇中だったこともあって 、その時は、ほとんど衝動的に旅を決意した。妻に、旅に出ないか、というと即座に同意してくれた。

Prullans  ピレネー スペイン側 プルヤンスの村
私たちは荷物をまとめ、ヴィクトル・ユーゴを持って翌朝出発した。
行く先はユーゴが1843年の夏に訪れたガヴァルニと決めた。モン・ペルデュ、”失われた山”という謎めいた名前がついた峻峰のふもとにある村だ。
スペイン側から一度出て、フランス側から再びピレネーの山に入るため、私たちはアラン渓谷を抜けて、フランスの信仰のまちルルドを目指した。
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