ルルド 聖母の洞窟
 その日の夕暮れまで命がけの旅を続けて、私たちはルルドに着いた。
 ルルドは奇跡のまちだ。
1858年2月11日、この村に住む貧しい粉引き小屋の娘ベルナデットの前に聖母が現れた、といい伝えられている
ベルナデットが導かれた洞窟から湧き出す水は病を癒すといわれていて、 そのために世界中から信者が集まってくる。
私が、すっかり乏しくなった頭髪を撫でて、神様にお祈りすればフサフサということもあるかな、というと妻はにべもなく 、そんなつまらないことにかかわっていられるほど神様はお暇じゃないわ、といった。
それより中身のほうをお願いしてみたら、と付け加えた。

Gave de Pau  ルルドのまち ポー川
いつか、妻の口にガムテープを貼る勇気と機会を持てたら、口だけでなく鼻の穴も塞いでやろう。
 私たちはこのまちの真ん中を貫いているギャーヴ・ド・ポー川を渡って、坂を昇りながらその夜の宿を探した。 夏のルルドは観光客と信者でごったがえしている。空室をみつけるのは容易ではなかった。 諦めかけて他の町まで車で移動しようかと思いかけたとき、ひとつみつかった。なかを見せてもらうと、ベルナデットだって びっくりするくらいみすぼらしい部屋だった。しかも値段を聞いて目玉が飛び出し、あごが落ちた。
しかし、くたびれ果てた体に気力はなく、もうどこでもいい、といった気分だった。妻もうんざりした顔をしている。
私は神様に、ちょっと他人にはいえないような悪態をついた。
その神は、どうせ私の宗教じゃない。
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