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ピレネーの山道
 翌朝、おそろしい轟音とともに目が覚めた。
何がおきたのかわからず、あわててベッドから転げ落ちたが、事態はすぐに把握できた。
目の前にある教会の鐘楼で鐘を打っているのだ。 迷惑この上ない巨大目覚まし時計だ。
頭を直撃する強烈な音波が、ただでさえできの悪い脳みそを頭蓋の内側のあちこちに叩きつけた。
私の思考を制御している精密な部品にとって、いかにも悪い影響がありそうだ。
鐘は執拗だった。 いったい何度打つつもりなんだと思ったとき、ある考えに至った。
ひょっとして、昨日、神様にいったあの悪口がまずかったのかもしれない。
ふん、神だのみの人生を送っているわりには たいそうな口をきくじゃないか、というわけだ。
しばらくして、神様のいやがらせは終わったが、その後の突然の静粛は轟音とかわらないくらい頭に響いて、それがしばらく続いた。
 私たちはこのホテルで朝食を摂ってから次の目的地 リュ へ出発することにした。
驚きと発見、それは旅の楽しみのひとつでもある。
どこまでをコーヒーと呼べるか、という問いに挑戦的な答えを出している黒い液体、牛乳の定義を再確認したくなるミルク、そして バターを極力省いてクロワッサンに良く似たパンを作る技術、朝食はどれも新鮮な驚きでいっぱいだった。
支払いを済ませ、荷物を車に収め、運転席に着いてミシュランの地図を広げた。
これから行こうとしているまち、リュ(Luz)、スペイン語風に発音すればルス、それは光という意味だ。
地図の上では、Luz-St.Sauveur(リュ-サン・ソーヴール)とある。 長い間このまちは単にリュといわれてきたが、1962年4月9日以降 ふたつのまちを併せて、リュ サン・ソーヴールと呼ばれるようになった。 つまり合併だ。
車でルルドのまちを出て、長い坂を下って行くと、ギャーヴ・ド・ポー川に沿って田園がひろがり、いくつかのまちを抜けて道は渓谷へと入っていった。
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