Esquièze-Sèreのまち  わたしたちはベンチに腰を下ろした。それこそ、よいこらしょ、といった具合だ。
この程度歩いただけでも随分疲れるわ、すっかり歳をとってしまって、皺も増えたし、もう美しくもない。
いやに悲観的なことを妻はいいだした。
わたしはサービスのつもりで軽く、そんなことはない、今でも充分美しい、心臓がドキドキするくらいだ、といった。
そのどうでも良いような軽さが気に入らなかったらしい。
今じゃすっかりあなたもラテン系というわけね、口ばっかりの。 心臓がドキドキするのはもともと血圧が高いからよ。 妻が軽くわたしを罵った。
やれやれだ。 わたしはヴィクトル・ユーゴがここからガヴァルニへと旅をしたことに話を移した。 話題をうまく変えて危険な言葉の 地雷原から脱出を図った。 ジョルジュ・サンドも通っているぞ、どうだ、感動的じゃないか。
しかし妻はちっともわたしのいうことを聞いていなかった。
妻が私の肩に手をまわした。 ちょうど酔っ払いがするように。
そして、微笑みながら、あなたは今でもいい男よ、といった。
いきなりそんなことをいわれて、わたしはうろたえてしまった。
十代の少女のようにどぎまぎして、何と答えていいかもわからなかった。
うまく仕返しされたことに気づいたのは、暫く経ってからだった。
気が付くのが遅れたのは、そうかな、と思ったからだ。
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